「いや、どの程度で躓くのか見てみたくて」
何で、と尋ねる前に彼が言う。
私は、彼が呆れて物も言えなくなるほど数学ができない。
家族全員文系で、その血を色濃く受け継ぎ、小学生の頃から算数という悪魔に悩まされ始めた私は、算数が数学に進化した今なお、寧ろ、かつてより深刻に悩まされていた。
「えっとねー、この問題。もはや問題文の意味すらわからなかった」
彼の方に問題を向けると、ちょっと考えてから、
「ペン、と、紙」
問題から目を離さないでそれだけ言った。
「あ、はい」
筆箱からシャープペンを取り出し、紙は手近にあった私のスケジュール帳のメモ欄を差し出した。
「さんきゅ。これ俺サラっと解いたら超かっこよくない?」
私からそれを受け取りながら、にま、と笑って私に言う。
「うん、かっこいいと思う」
「よっしゃ、3分で解いてやる」
私が笑って頷くと、彼ももう一度笑って、紙にペンを走らせ始める。
割と整った字でさらさらと数式を書く。ベクトルの問題だが、どこかの大学の過去問らしかった。
たまに問題文をちらりと見ながら、ほぼノンストップで解き進める。
真剣な顔、かっこいいなぁ。
.

