あの子の好きな子




だいたい、先生って何時頃帰るんだろう。今は特に採点で忙しい時期だし。それにしても、残りは家でってならないかなあ。あ、ああいうのって持ち帰るの禁止されてるんだっけ・・・。よく、わからないけど。ああ、あんぱん、もう1つ買っておけばよかった。

ちら、とコンビニの方を見た。あそこに行って、あんぱん買って、帰って来るぐらいなら、平気かな?そう思った瞬間だった。篠田先生が、学校の方から歩いて来るのがはっきりと確認できた。遠くても、暗くても、背格好ですぐに篠田先生とわかる。

来た・・・!

私は先生を待っていたその何時間の間に、何度もシミュレーションをした。先生はなんて言うだろうか。きっと、「送ってくから帰ろう」だと思った。私は百点満点がとれなかったけど、先生の住んでいる街にどうしても連れて行ってほしくて、先生を待った。だけど私が何時間待っていたと言っても、先生は私を連れて行ってはくれないだろうというのが私の結論だった。だから先生を待ちながら、私は作戦変更をしていた。

先生の最寄り駅まで、内緒でついていく。
もうストーカーまがいでもなんでもなく、ただのストーカーとしか言えなかった。でも私は常識も客観性もあの告白の日の夜にすべて置いてきたので、私を止めるものは何もなかった。しいて言えば、あの時の雄也の忠告ぐらいだったのだ。

3駅乗って、乗り換えをして、そこから7駅。そう遠くはない場所だった。場合によっては県をまたぐこともあり得るわけで、交通費がいくらになるだろうとドキドキしていた私はほっとした。先生が改札を出た少しあとそれについて行って、ふと考えた。

いつ、声をかけようか?

このまま家まで行ってしまったら、私は本当にどこからどう見てもストーカー。もう手遅れかもしれないけど、さすがにそこまでするとやばいと思った。

「・・・篠田先生!」

意を決して声をかけたら、篠田先生の肩が一瞬ぴくりと動いた。振り返った篠田先生は私の姿を確認すると、またぽかんと口を開けるあのまぬけ面をして驚いていた。少しすると、先生がこっちに駆け寄って来た。