あの子の好きな子




机にかじりついて勉強した理科総合は、最後の一問だけわからなかった。

「最後の一問、できた?」
「いや。篠田、意外とせこい問題出すんだなあ」

うちのクラスのエリートツートップの会話が聞こえた。あの二人にもわからないんだ。試験勉強のほとんどを理科総合に費やした私でもわからなかったし、あの二人のどちらもわからなかったとすれば、相当難しい問題を持ってきたんだと思った。中間の時は、みんなが試験のことを優しい優しいと言っていたのに。




「先生。ずるしてません?」
「ん?何の話?」

準備室に行っても先生がいない、長く苦しい試験期間が終わった。久しぶりに準備室で先生と顔を合わせて、私は開口一番そう言った。

「テスト。すっごく難しい問題、混ぜたでしょ」
「全部簡単だったら、テストにならないからなあ」
「そうじゃなくて、いじわる問題出したでしょ。うちのクラス、誰も答えられなかったと思う」
「じゃあ、久保のクラスにはもっと頑張ってもらわないとな」
「先生。百点満点あげたくなくて、やってません?」

じろりと先生を睨んだ。先生は、手帳を開きながらわからない振りをした。また、私の顔を見ない。

「そんなことしないよ。それだって、特別扱いになるからなあ」
「先生。そんなにごほうび、だめですか」
「だから、違うよ」
「私、勉強時間、ほとんど理科Bに費やしたんですからね・・・」
「久保」

私の話にかぶせるように、先生が私の名前を呼んだ。叱られるのかと思った。

「先生、採点があるんだ。悪いんだけど、今日はもう、帰りなさい」

エスカレーターを、逆走しているみたい。登っても、登っても、ぐんぐんと離される。私は上の階に行きたくて、走っているのに、進まない。エレベーターがそこに止まっていて、「私それに乗ります」と言っているのに、中にいる先生はすぐに閉まるボタンを押す。私の目の前で、扉をぴしゃりと閉めてしまうの。

あと少しで、夏休みなのに。
1か月以上も先生に会えないなんて考えられない。