「ねえ、教えてくれない?生物」
「・・・俺に聞かなくても、お前しょっちゅう篠田のところ行ってるだろ」
雄也にそう言われて、少しドキっとした。私はほとんど毎日準備室に通っていたけど、それは誰にも言っていなかったし、準備室のある階は人がほとんどいなくて廊下の電気もついていないことが多いくらいだった。友達にどこに行っていたのと聞かれても適当にごまかしていたから、私の準備室通いは誰も知らないと思っていた。
「・・・なんで知ってるの?」
「あのへんよく通りかかるから」
「あのへんって。どうしてあんなところ・・・」
「人がいないから好きなんだよ。別になんとなしに足が向かうことあるから」
そんな人がいたのか。先生に負けず、雄也もたいがい変わっているから、ありそうではある。
「へんなの・・・。あんなところで、何うろうろしてるの雄也。ますます怖がられちゃうよ」
「大きなお世話だよ。人のこと言えないだろ。なんだって担任でも顧問でもない篠田とそんなに仲いいんだよ」
「・・・別に仲よくなんかないよ。私が好きなだけだもん」
「何?」
「なんでもないよ!」
雄也は何も悪いことをしていないのに、私は怒ったようにそう言い捨てた。私は特別じゃない、他の生徒とおんなじなんだと当の本人に言われたばかりだったから、誰が仲いいもんかとムキになってしまった。売り言葉に買い言葉。私ってやっぱり、人より感情的なんだろうか?
「・・・満点とりたがってんのも、篠田になんか関係あんの?」
「・・・・・・ごめん。本当に何でもないの。忘れてね」
しっかり聞こえてたんじゃない。
私がぼそぼそと呟くように答えると、雄也は私の真正面に立った。顔を上げたら、雄也と目が合った。
「これも大きなお世話なのは重々承知で言うけど。お前、相手は選べよ」
ずきんと胸が痛んだ。雄也は真剣な顔で、私の目を見ている。
