あの子の好きな子




身に覚えのないことで中傷を受けて、苦しかったけど、その共有概念はあくまで部活動というコミュニティ内でのことだったから我慢できた。それに、私にはよくあることだった。慣れていたのだ、こういうことに。

「雄也、クラスでうまくやってる?」
「・・・普通だよ、しつこいな」
「ちょっとくらい、にっこりしなよ、無愛想なんだから」

私はいつも雄也にそんな風に話していた。人付き合いが苦手な雄也のことを心配する一方で、人間関係では私も何度も失敗をした。雄也とは少し違う付き合い下手だった。

先生に街で偶然会ったのは、そんな部活動でのストレスが限界に達していた頃だった。尊敬していた先輩が、いつもの私の噂話の輪に入っているのを見てしまった日だった。今さら同級生に何を言われても平気だったけど、憧れていた先輩が、私の噂話に頷いている姿はあまり見たくなかった。家に帰りたくなくなった私は、なんとなく人ごみの中にいたくて、夜の街をとぼとぼと歩いていた。

駅から、大きなファッションビルまでの通り。ここはいつもたくさんの人が行き交っていて、自分が大勢の中の一人になれることに少し安心していた。

世界は、なんて生きづらいんだろう。私は体が健康だし、家族もいるし、満足に教育を受けられる。友達だっているし、クラスでは楽しくやっている。私はきっとすごく幸せ者で、もっともっと苦しい人はたくさんいるのだけど、それでも私は毎日に疲れていた。どこかでいつも陰口を言われているかと思うと、コートに立つのが億劫だった。

「久保?」

雑踏の中で、聞き慣れた声がした。砂漠の真ん中に一滴水が垂れたみたいに、私の胸がとくんと鳴った。