博物館の順路の途中で座り込んだ女と立ち上がらせようとしている男。私達の存在はどう見ても目立っていて、例の二人がこっちに気付くのにそう時間はかからなかった。
「雄也・・・・・・」
先に声を出したのは久保さんだった。やっぱり、さっきの、帽子をかぶった細身のロングヘアの女の子は・・・今度こそどう見ても、どこからどう見ても久保さんだった。
制服を着て学校にいる時も、久保さんは大人っぽい。だけど今日の久保さんはその数段大人の女性で、さっき後ろ姿を眺めていたときも彼女の方は社会人かなあと考えていた。
「森崎さんも・・・、来てたの?」
「・・・あゆみ。立てよ」
「あ・・・、う、うん」
私は突然視界に入った衝撃的な現実に面食らってしまって、とにかく落ち着いて静かにしていようと思った。静かに、広瀬くんの言うことを聞いて、とにかく、私は落ち着かなくちゃいけない・・・。
「広瀬と・・・森崎か」
あとからやってきた篠田先生がいつもより低いトーンでそう言った。こっちも、どうやらもう間違いなく篠田先生みたいだ。いつものださいシャツとセーターとあまり変わらない、地味な色のニットを着ていた。
「・・・もしかして、雄也んちももらったの。ここの無料券」
「・・・ああ、まあ」
「ちらっとは、思ったんだ。もしかして、って。雄也、こういうの、好きだし・・・」
久保さんは帽子をきゅっとかぶり直した。私は、どうして篠田先生と久保さんがここにいるんだろうと考えた。担任でも顧問でもないはずだけど、そんなに仲がよかったのだろうか。意外なこともあるもんだ。だけどたとえ仲がよかったとして、教師と生徒が二人で日曜日にこんなところに来るだろうか。それにこの二人の雰囲気からしてそんなのじゃないっていうのはすぐにわかった。
つまり、つまり。つまりのその後を言葉にするにはあまりに衝撃的で、私は何度も頭の中でつまりと繰り返した。
