あの子の好きな子




少し距離はとっているけど、二人で並んで作品を眺めている。たまに一言二言会話を交わして、くすくす笑っている。そんな二人組を見かけた。

くっついたまま興味なさげに観覧を進めるカップルより、熱い激論を交わして盛り上がるカップルより、私はその二人の雰囲気が気に入った。私と広瀬くんよりはずっと距離が近くて、でも近過ぎない。二人ともゆったりと、日曜日の幸せな時間を楽しんでいるのがわかった。手は繋いでいなかったけど、時々彼女の手が彼の腕にすり寄るように触れるから、二人は恋仲なんだろうと思った。あんな風な、自然な雰囲気の二人に、私はなりたい。

「あ、あゆみ」
「ははいいっ」
「・・・。トイレあったけど。行く?」
「あ、いいっ。私はいいっ」
「あ、そう。俺も行かない」

それだけ会話をすると、広瀬くんはまた一人の世界に入って行った。私がもう少し、数歩近寄れば、あの二人みたいになれるかな?たとえ私が広瀬くんの真横にいても、広瀬くんは自分の世界に私を入れてはくれない気がするけど・・・。

もう一度、さっきの二人の後ろ姿を見た。彼女は帽子をかぶっていて、長い髪がすとんと肩にかかっている。一方の彼は髪の毛がぼさぼさで、雰囲気がだらしなくて頼りない。なんだか、誰かに似ているような。

「・・・・・・広瀬、くん・・・」

私はその彼から目が離せなくなって、彼に視線を合わせたまま広瀬くんを呼んだ。もう少し、もう少しで彼がこっちを振り返りそう。誰に似てるのか、思い出せそうなの。

「なに?」
「ねえ広瀬くん、あの人なんか、あれに似てない?ほら・・・」

その時、その彼が別の作品を見ようとしたのか、ゆっくりとこっちの方に振り返った。その背中も、肩も、髪の毛も、顔も、すべて私たちは見たことがあった。見たことがあるどころか、毎日見ているあの人だった。

「・・・し 篠田先生?」