「結構、若い人も、多いんだね」
「まあ、わりとでかい展だから」
会場について、ようやく私はまともに口がきけるようになるまで回復していた。ここに来るまでの間に、緊張で口が渇きまくって、持ってきていたお茶を全部飲み干してしまった。日曜日の昼下がりに私服で並んで歩くというのは、思った以上にデートっぽくて恥ずかしかった。もうデートとかいう単語が恥ずかしい。
「私、もっと、老夫婦たくさんって感じかと思った」
「まあ、そういうのもあるけど・・・日曜だし普通に若いカップルも多いんじゃない」
かっぷる・・・!私が恥ずかしくて口に出せなかった単語を広瀬くんがぶちかましてくれて、私は一瞬、かちこちロボットに戻ってしまった。
「・・・聞いてる?」
「はいっ!」
「俺、勝手に見て回るから。お前も好きにしてろよ」
「うん」
広瀬くんはそう言うと、ふらふらっと展示物の間を回遊して、時々止まってはぼんやりと展示物を眺めた。私はこのミュージアムのテーマにほとんど興味がなくて、ものの良さも全くわからないので、とりあえず邪魔にならない程度に広瀬くんのあとをついて回った。うろうろと歩き回る広瀬くんを見ているだけでこの上なく楽しかった。
時折、展示品にはあまり興味がなさそうなカップル客の繋がれた手が視界に入った。へー、ふーんと言いながらサクサク順路を進む二人組もいれば、同じ趣味なのか熱いトークバトルを繰り広げる二人もいた。
「あゆみ」
「はいいっ」
不意打ちで広瀬くんに名前を呼ばれた。なんだかすごく久しぶりにあゆみと呼んでもらえた気がする。そして私服+日曜+あゆみの攻撃力が凄い。
「俺、2階行くけど」
「あ、わ、私も」
「・・・お前、退屈じゃないのか」
「全然!」
2階に上がっても、広瀬くんはうろうろと展示品の周りを歩いて回った。私は少し後ろから広瀬くんについて行って、首を傾げたりぼんやりしたりする広瀬くんの姿を眺めていた。
