あと40分で着くよ。
勢いを失くした今、電話をかける勇気がなくて、次の連絡はメールにした。返信は「わかった」一言だけだった。今まで広瀬くんには提出物の期限の確認とか、そういった事務的な質問メールなら送ったことがあったけど、どれも広瀬くんの返事は質問に対する回答ただ一言のみだった。絵文字や顔文字がどうどころのレベルではない。句点すらなかった。
”遅れてごめんね。気が付いたら、あの時間だったの”
広瀬くんに会ったら、そう言うつもりだった。だけど待ち合わせ場所の駅の改札で、広瀬くんの姿を発見した時、言葉が何も出なくなってしまった。制服を着ていない広瀬くんを初めて見たもんだから、心臓が金縛りにあってしまった。私には男の子のオシャレなんてよくわからないし、広瀬くんがオシャレなのか普通なのかださいのかは全くわからない。ただ私服姿の広瀬くんが私には理屈じゃなく格好良く見えて、どくんどくんと心臓が騒いで仕方なかった。
「おはよ」
珍しく広瀬くんの方から挨拶をしてくれたというのに、私は金縛り状態からまだ復活できていなくて、あうあうと口を動かしただけだった。広瀬くんには変な顔をされた。
「・・・なんなんだ、お前」
「あ、あの・・・ひろ、 ひ 広瀬くん」
「なんだよ」
「・・・お、遅れてごめん」
「・・・別に俺も全然支度してなかったからいいよ」
私は、広瀬くんが身にまとっているものが何もかも素敵に見える病というのにかかっているので、広瀬くんの鞄や靴までもに恋をしそうになった。夏から秋への衣替え、制服に初めてセーターを着てくる日もそのセーターがやけに格好良く見えてしまう私には、私服姿というのは刺激が強すぎた。
「おい、起きてんのかお前」
「えっ起きてます」
「挙動不審だけど」
「えっごめん。変かな私」
「いやいつも変だけどさ」
広瀬くんは変な顔をしたまま私を眺めた。カチンコチンに固まったままの私を諦めて、行こうと言った。私はリアルに手と足を同時に出そうとした。
