あの子の好きな子




日曜日の朝。

楽しみに楽しみに楽しみに楽しみに楽しみに待っていたのに、なぜ当日、決戦の朝、ここに来て私は寝坊をかましてしまうのだろう。

「・・・・・・うそ」

携帯電話のディスプレイに表示された時刻が信じられなくて、一度画面を落としてからもう一度見た。間違いなく、もう家を出るはずの時間。家を出てなきゃいけないはずの時刻に、私はようやく瞼を開けた。

「もしもし、広瀬くん、ごめん寝坊した!」

この時刻が現実だと受け止めて、さーっと血の気が引いたあと、私は夢中で広瀬くんに電話をかけた。受話器の向こうから、広瀬くんのかすれた声が聞こえた。

「え?・・・ああ、そう」

直に耳に伝わるその声にどきっとして気が付いた。初めて広瀬くんに電話をかけてしまった。初めて電話越しに広瀬くんの声を聞いた。向こうも起きたばかりなのか、いつも以上に眠たそうな声がする。

「別に、俺もまだ家だから・・・急がなくていいからつきそうになったら連絡して」
「う、うん」
「じゃあ」

初めての電話は1分ももたず終わった。広瀬くんはぼそぼそと面倒臭そうに喋ったけど、その起きぬけの声が新鮮で、広瀬くんに「連絡して」と言われたことがなんだかよくわからないけど妙に嬉しかった。連絡して、だって。仲良しっぽい。

服も鞄も昨日のうちにばっちり用意していたので、シャワーを浴びたら準備はほぼ完了だった。慣れない化粧はしないと決めた、マイナスを生み出すリスクを取るよりは、いつも通りの私にしてプラマイゼロにしようという結論だった。