あの子の好きな子




「不思議だな」
「何が・・・?」

広瀬くんは私の顔を見るのをやめたけど、私はまだ目が離せなかった。広瀬くんは、ちょっとだけ笑いながら、話を続ける。

「お前といる方が、よっぽど落ち着くよ」

その時、びゅうっと強い風が吹いた。私は髪を押さえながら、その言葉の意味を考えた。

「・・・どういうこと・・・?」
「俺、遥香とはずっとつるんでて、楽は楽だけど、遥香といるとどっか緊張するっていうか。なんとなくかっこつけるところあるんだけど」
「・・・え?」
「この間知り合ったみたいなお前といる方がずっと落ち着くから、変なもんだな」

それはきっと

それはきっと、私のことを意識していないから。そういう悲しい構造はすぐに理解できたけど、それでも私は広瀬くんの言葉が史上最高に嬉しい誉め言葉に感じられた。広瀬くんと久保さんの付き合いの長さはもうどうにもできなくて、もしもこの先私と広瀬くんが一生一緒にいたとしても、二人の付き合いには追いつけない。そんな途方もない差を感じていたから、広瀬くんにとっての一番親しい女の子はやっぱり何をどうしても久保さんだって思ってた。

だから広瀬くんが、私といてそんな風に感じてくれるなら。特別な思いを寄せる女の子は例え久保さんでも、一番落ち着くのは私だって言ってくれるなら。これ以上嬉しいことはないじゃない。

「・・・ひ、広瀬くん、あの・・・うえっくしゅ!」

広瀬くんに何か言いたかったけど、くしゃみが邪魔をした。広瀬くんはそれを見て、ちょっと吹き出して笑った。

「冷えたな。もう帰れよ、腹は膨れたろ」
「あ、う、うんごめん、広瀬くんも寒いよね・・・」

広瀬くんは別にと言ってまた自転車を転がした。私はまたくしゃみをしたけど、温かい気持ちで胸がいっぱいだった。