あの子の好きな子




「じゃあ・・・気付いた時にはもう、彼氏がいたんだ・・・」
「言ったろ。だから、どうする気もないから。ただズルズル引きずってるだけ」

広瀬くんは、どうでもいい噂話をするように、他人事のように話した。ズルズルと、3年間も引きずって断ち切れない想いがあるのは、それだけ広瀬くんにとって久保さんが大きな存在なんだろう。私の知りえない10年以上の二人の思い出が、少しずつ広瀬くんの気持ちを紡いでいったんだ。そう簡単にほどけるものじゃないのかもしれない。

「そっか・・・・・・」
「お前、変に同情とかすんなよ。別に、辛いとか苦しいとかそういう面倒くさい感じじゃないから、全く」
「でも・・・」
「でもなんだよ」
「なんでもない・・・」

今年、クラス替えをしてから、なんとなく気になっていた。学期明けの席替えで、隣の席になれた。それからどんどん好きになって、苦しくなった。私と広瀬くんの歴史なんか、久保さんと広瀬くんの歴史の10分の1にも遥か及ばないのに、私は辛くて苦しくて面倒くさい感情に思いっきり飲み込まれている。

「ごめんね・・・」
「今度はなんだよ」
「なんか余計なこと色々聞いて、ごめん・・・」
「今さらなんだよ。お前は最初っから余計なことしか聞かない質問魔だろ」
「ご、ごめん」

広瀬くんは、また私のことを凝視した。恥ずかしいのに今度は目が離せなくて、ただ広瀬くんの目を見つめて寄り目になってしまいそうだった。

「な、なに?なに・・・?」