「なんか文句あるのか」
「ちょ・・・直近で行ったやつは?」
「・・・先々週・・・オリエント文明展」
「広瀬くん、そういうの、好きなんだね・・・知らなかったよ」
まだまだ知らない広瀬くんがいっぱいいる。それを聞いてよく考えてみたら、授業中の居眠り率の高い広瀬くんが歴史の時間に眠っているのは見たことがない。先生の話を聞いているようには見えないけど、そういえば資料集をぱらぱらと眺めていた。好きだからなんだ。
「お前、笑いこらえてるだろ」
「ううん、違うの!面白いんじゃなくて、嬉しい」
「何がだよ」
「別に!」
はっきりと実感を持ってわかる。広瀬くんと私は、クラスメイトとして、確実に距離を縮めてる。今の私達は、昨日の私達よりずっと近くて、歩み寄ってる感じがする。それが純粋に嬉しいんだよ。
「ねえ、次は?次はどんなやつ行くの?」
「決めてないよ」
「私も行きたい!」
「・・・いやだから決めてないって。何に興味あんの?」
「なんでも!」
広瀬くんは困った顔をした。いつもの教室のいつもの空間だったら、こんなに図々しいこと言えなかったかもしれない。広瀬くんと二人の帰り道というこの特別な空間で、距離が縮まる実感があったから言えたこと。ある種のハイテンションだからできることって、結構ある。
「・・・じゃあ今週の日曜、一応あるけど。空海のやつ」
「うん、それがいい、行きたい」
「・・・お前、本当にそういうの興味ある?」
「うん、興味ある!」
「・・・お前の興味あるはよくわかんないな」
広瀬くんが仕方なさそうに笑った。広瀬くんは無邪気に笑うととてもかわいくて大好きだけど、この仕方なさそうな笑顔もすごく好き。
