あの子の好きな子




思えば、時間割を見たときに、気付いておくべきだった。もう少し、考えを巡らせておけばよかった。

「広瀬くん、理科室の灯りついてる!準備室じゃなくてまだあっちにいるかも」
「あいつ実験の時だけは授業長引くからな」
「教室の時は早めなのにね」

広瀬くんとおしゃべりしながら、実験室の扉を元気よく開けた。そこには確かに白衣姿の篠田先生がいて、その教卓を挟んで向かい側には一人の女子生徒がいた。遠くから見かけたことはあったけど、こんなに近くではっきりと目を合わせるのは学園祭のあの日以来だった。

「あ」

久保さんがいた。何やら篠田先生にプリントを手渡している。ピンクのエプロン姿も可愛かったけど、薄いベージュのセーターがよく似合う制服姿も清楚で素敵だった。今までこの状況になったことがなくて、もしなったらなんてことも考えたことがなかったけど、充分にありえることだった。
実験室には久保さん、扉のところに私がいて、その後ろに広瀬くんがいた。

「あ、森崎さん・・・?と雄也」

久保さんは私のことを覚えていたらしく、ぺこっと会釈をした。よく考えてみればこの状況をまずったと感じているのは私一人だ。もしかしたら広瀬くんもちょっとくらい恥ずかしさを感じているかもしれないけど、少なくとも久保さんにとってはただ顔を見知った二人と同時に会っただけのなんともない状況だ。

「久保さん・・・あっそうか、6限、E組の授業って・・・」
「あ、うん、授業終わりに、篠田先生が・・・プリントたくさん落としちゃって、拾うの手伝ってたところだったんだ」
「そっか・・・」
「ごめんね、篠田先生に用事?私ももう戻るね」

久保さんは時間がないのか少し焦った様子で、早口で話した。プリントを全て篠田先生に渡すと、もう一度私に会釈をして教室を出ようとした。

「雄也じゃあね」

最後に広瀬くんにそれだけ声をかけて、久保さんは行ってしまった。前に会ったときはもう少しのんびりおっとりした雰囲気だったけど、何やら急いでいるらしい。