あの子の好きな子




広瀬くんにはあからさまに好きだという証拠になる行動をしてきたけど、辻くんにはそれがない。確かによく話すし、なついてくれてはいたけど、辻くんは誰にでもそうだったし、私が特別だと感じたことはなかった。私のように泣きながらしがみついたこともない。そんなのなくて普通だけど。

やっぱり、からかっているだけのような気がする。

「加奈があゆみ先輩には相談できない理由、わかった?」
「え?」
「加奈はずっと俺を見てるでしょ。知ってるんだよ、俺が今一番興味あるの、あゆみ先輩だってこと」
「・・・え?」

加奈ちゃんの、いかにもなにかありそうな「内緒です」の顔。辻くんの今の話。もしかして、少なくとも「興味がある」程度のレベルなら、辻くんの言っていることは本当なのかもしれない。

「だからさ。教えてよ、あゆみ先輩の話も」
「・・・話って・・・」

だからさと言われても。私の頭の中には、広瀬くんのこととか、加奈ちゃんの笑顔、辻くんのまっすぐな視線がぐるぐるになって回っていて、まだ整理がつかない。落ち着いて考えようと思ったとき、キイキイという自転車の音がした。

「あ・・・」
「どうしたの?」

きっと広瀬くんの自転車だ。そう思って自転車置き場に視線を戻すと、そこには確かに広瀬くんがいた。でも広瀬くんだけじゃなくて、その隣には久保さんもいた。そういえば見たことないけど久保さんも自転車通学なのかもしれない。混乱したままの頭の中で、それだけぼんやり考えた。