あの子の好きな子




もう、最後の授業が終わってからだいぶたつ。やっぱり帰ったのかもしれないな。今日がバイトの日かもしれないし。

「ねえ、あゆみ先輩ってば。どうしたら教えてくれる?」
「え?まだ言ってんの?もうめんどくさいなあ、加奈ちゃんに聞いてよ」
「だってあいつ、結構口かたいよ。頑固だから」
「・・・そういえば加奈ちゃんの話も聞けなかったなあ」

広瀬くんが来そうもないので、適当な写真を一枚撮った。古びた自転車の群れ。モノクロ加工でもしたら、それなりに味のある写真になるんじゃないか。私はいつも加工をしすぎていまいち薄っぺらい写真になるけど。

「・・・じゃあさ、先輩。加奈の好きな奴教えてあげるから、そしたら先輩の話も教えて」
「え?」
「いいでしょ、交換条件」
「辻くん知ってるの?」
「まあね、仲いいからさ。ねえ、いいでしょ」

私のデジカメが2枚目の写真を撮った。ずっと性能の良さそうな辻くんの一眼レフは、辻くんの首から下がっているだけで仕事をしない。もったいない話だ。

「いいよ、そういうのは本人から聞くし」
「・・・たぶん言わないよ、加奈は」
「ならいいよ、辻くんからも聞かない」

1年生の色恋沙汰を聞いても、どうせ知らない人だし。本人から色々聞かないと、意味がないのよ、辻くん。

「なんか、やっぱりいまいち。場所変えよっかな」
「俺だよ」
「え?」
「加奈の好きな奴、俺だよ」

ぴゅうっと秋風が吹いた。そう言い放った辻くんの顔は笑っているわけではなく、落ち込んでいるわけでもなく、嬉しそうでもなかった。