「あと5分だよ」
「えっ?」
「1限終わりまで」
広瀬くんが腕時計を見た。広瀬くんが付けている腕時計さえ、なぜだかなんとなくかっこいいものに思えた。確か恋ってこんなだった。
「もう、教室向かうか」
「あ、うん」
「篠田だしもう授業終わってるかもな」
「うん・・・」
広瀬くんは飲み終わったカフェオレの容器をくしゃくしゃにしてゴミ箱に投げた。きれいにカコンと音をたててカフェオレは消えていった。教室までの階段をゆっくりと上りながら、とても濃い50分間だったと思った。
「・・・あゆみ」
「え?」
階段を上る途中で、突然広瀬くんが足をとめた。私より3段ほど上の段にいる広瀬くんが、こっちを振り返る。目が合ってどきりとした。
「あのさ」
「なに・・・」
「もう1回、聞いていいか」
「え?」
「俺に興味あるって、どういう意味?」
どきり、どころじゃない。止まってしまうんではないかと思うほどに、心臓が一度大きくどっくんと鳴った。いきなり、見られたくないところのど真ん中のところをぐわっと掴まれた気がして、しばらく言葉が出なかった。
「あ・・・、あの・・・」
「前に言ってたろ。色々聞くのは俺に興味があるからって。それ、どういう意味?」
「う、うん・・・えっと」
広瀬くんは、確かめているのかもしれない。あれほどあからさまに示した私から広瀬くんへの好意を、確かめているのかもしれない。正直、そんなの察してよ!とも思った。
