あの子の好きな子




なにか話さなくちゃ。

「えーと、えーと、久保さんって、きれいだよね」
「またその話か」
「知ってたけど、なんだか去年より、きれいになったみたい」
「・・・。別に、たいしたことない。お前とは正反対だから、ないものねだりで良く見えるんだろ」

がーん。
そんな効果音を是非私のうしろに書いて欲しかった。個人的にすごくきれいだと思った女の子と自分が正反対だなんて言われたら誰だってショックだ。やっぱり広瀬くんは私の気持ちに気付いていないんだろうか?全く気にしていないんだろうか?

「・・・久保さんが言ってたの、熱は37度って・・・」
「ああ。その日俺の母親が、玄関先でたまたま会ったって言ってたから。その時、聞いたんだろ」
「そんなに近いの?」
「近いっていうか、向かい」
「へえ、いいな・・・」

はっとして、まずいと思った。いいな、なんて口走ってしまった。また広瀬くん好きをアピールしてしまった。いい加減引かれるかもしれない。

「あ、あの!広瀬くん、パンフレットもらってないよね、学祭の!あとであげるから」
「別にいらないよそんなの」
「そっか、そうだよね・・・」

無理に話題を変えた。1限終わりのチャイムはまだだろうか。嬉しくてたまらないはずの広瀬くんとの二人の時間が、今はとにかく恥ずかしい。