あの子の好きな子



それから、キリが悪いので1限が終わるのを広瀬くんと待った。広瀬くんが自販機のいちごミルクを買ってくれて、廊下のベンチで飲んでいた。私がしょっちゅう休み時間にここのいちごミルクを飲んでいるのを覚えていてくれたらしい。感動だ。
飲み物を飲んで一息つくと急激に気分は落ち着くもので、自分が何をしでかしたのかだんだん客観的にわかってきた。恥ずかしい。みっともない。ほとんど告白してしまった。広瀬くんは教室に帰ったら連絡先教えてやるからと言ったけど、もうその作業も今ここに座っていることも恥ずかしくて仕方ない。



「1限、篠田の科学だったよな」
「・・・う、うん」
「ならいいか、別に」
「う、うん」

広瀬くんはカフェオレを飲んでいた。広瀬くんはいつも廊下にある冷水機で水分を補給しているようで、あまりこういう飲み物を飲んでいるのは見たことがない。カフェオレは少なくとも嫌いではないんだなあと、また無意識に広瀬くん情報をインプットした。

「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・なにか言えよ」
「えっ」
「だまるなよ急に。いつもは変なこと喋ってるくせに」

だって。
広瀬くんは、さっきまでの私の醜態をどう思ったんだろう。いきなり泣いて、逃げて、しゃがんで、彼女はいないのかと聞いて、連絡先を教えろと頼んで、私を一体なんだと思ったんだろう。さすがに、私の気持ちはわかっただろう。さすがに、頭おかしいよの一言で片付けてはいないだろう。

「あの・・・ごめんね」
「何が」
「迷惑・・・かけて」
「本当だよ」

それでも、いつもと変わらない様子の広瀬くんを見ていると、私のことを本当に心の底からなんとも思っていない、全く意識していないか、私の気持ちに気付いていないかのどちらかだと思った。前者のような気がした。

「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・なにか言えよ」
「えっ」

今は広瀬くんの顔を見るのも恥ずかしい。連絡先なんか教えてもらってももう一生メールなんか送れない、と思った。