「だって、広瀬くん・・・学園祭・・・、約束・・・たし、久保さん・・・」
「は?なんだ?落ちつけよ」
「ひ、広瀬くん・・・、かっ、彼女いる・・・?」
ひざに力が入らなくなって、へなへなと廊下に座り込んだ。それに合わせるように広瀬くんも座り込む。
「いないよ、それがどうしたんだよ。もう1回言ってみろ」
いないよ?
いないって言ったの?
一緒にしゃがみ込んでくれた広瀬くんのシャツをぐっと掴んで、顔を上げた。涙なんだか鼻水なんだかわからないもので顔中がぐしゃぐしゃだった。
「どうして・・・?く、久保さんは・・・」
「遥香は家が近くて昔から知り合いなんだよ、前に言ったろ。なんであいつが出てくるんだよ」
「だって・・・すごく・・・美人・・・」
「だからなんなんだって。お前、言ってることよくわからないぞ」
「か、彼女じゃないの?一度も・・・?」
「最初から最後まで幼馴染だよ」
久保さんは、彼女じゃない。ぐちゃぐちゃの意識の中で、それだけははっきりと認識した。不安その1がシュっと音をたてて消えた。
「でも・・・ほ、他に、彼女とか・・・」
「だからいないっつうの」
「じゃ、じゃあ・・・じゃあ・・・!」
「なに」
広瀬くんは 今のところ 誰のものでもないのね?
私が頑張っても 迷惑じゃないのね?
風邪さえひいていなければ 学園祭も二人で過ごせたのね?
数日間私を苦しめた不安がひとつずつ確実に消えていくのに、涙の方は止まる気配がなかった。気分の高まりからくるものなんだろう。
