あの子の好きな子




「どこ行くんだよ」
「ちょっとたんまだってば!」

もうすぐ1限が始まるのに、今にも泣き出してしまいそうで、とにかく席を立った。最後の方でついに涙声になってしまったのがばれたのか、広瀬くんは私の後を追って教室を出た。私はどこへ行くのか目標も決めずに階段を駆け上がって、地学準備室の前で息が切れた。人気のない場所だからちょうどよかった。

「あゆみ!」

すぐ後ろに広瀬くんはついて来ていた。私は足も速くないから当たり前だ。階段を1段飛ばしで上りながら、我慢していた涙もぼろぼろに流れていた。何がそんなに私を苦しめたのか、気持ちの整理もつかないままに涙だけが勝手に流れていた。

「どうしたんだよ」

1限開始を知らせるチャイムが鳴った。急に席を開けた私たちのことを、クラスメイトはどう思っただろう。でもそんなことはどうでもいい。自分勝手な不安で、自分勝手に泣き出して、広瀬くんには心底呆れられる。

「広瀬くん・・・授業・・・」
「お前がどうしたんだか聞いたら出るよ!俺、なにかしたか」
「・・・・・・って・・・」

だって。
学園祭は二人で過ごすって言ったのに、来なかったじゃない。
本当は久保さんと、すごく親しいんじゃない。
久保さんって、かわいくてきれいで大人っぽくて、完璧じゃない。

私は、あゆみって呼ばれただけで満足してたのに。
私は、広瀬くんの連絡先も知らないのに。