あの子の好きな子




広瀬くんは私の不安なんか知らないし、私が広瀬くんと二人の学園祭を心待ちにしていたことも知らない。それが空しい。

「・・・つらかったの、風邪」
「え?いやまあ、休めるなら休みたかったぐらい」
「ふーん。よかったねすぐ治って」

最高に可愛くない、私。
でももし私が風邪をひいた立場だったら、つらくても学校に来た。広瀬くんと二人でぼうっとしたかった。それが風邪をうつしてしまう結果になるかもしれないけど、それくらい自分勝手になってしまうほどばかになると思う。

「そういえば、聞いたけど、お前が心配してたのどうのって」
「・・・え?」
「くれぐれも、お礼言っとけって、言われた」
「・・・誰に?」
「だから、遥香に」

はるか。久保さんか・・・。

その瞬間、久保さんが雄也と言った瞬間よりも、私にありがとうと言った瞬間よりも、どの瞬間よりも胸が痛んだ。広瀬くんは、クラスの女の子たちとほとんど話さないから、きっと私には免疫がなかったんだ。広瀬くんの中に女の子がいることに。

「・・・なあ、聞いてる?」
「・・・・・・・・・」
「あゆみ」
「・・・・・・・・・」

私は、広瀬くんにあゆみって呼ばれるのが嬉しくて。今まで呼ばれたあゆみって言葉をすべて頭に録音してあるぐらい嬉しくて。だけど広瀬くんの中には、ずっと前から、はるかがいたんだよね。

「・・・ちょっとたんま・・・」

いつもあとちょっとのところで泣かなかった。この数日間溜めに溜めていたものが、今、溢れ出しそうだ。