あの子の好きな子




「せんせー、話があるんですけど」

早速健人が先生を呼んだ。心臓がドクドクいっている。仕方ない、私が落としましたって、言うしかない、他にどうしようもない。

「今日、中華丼なんですけど」
「うん、どうした」

健人が切り出した。言わなきゃ、言わなきゃ・・・仕方ないもん、私のミスだ。

「あの、私、」
「俺がぜんぶ落っことしちゃった。すんません」

え?

私はうつむいたまま、動けなくなった。健人がさらりと話を続ける。

「あ、中華丼つっても、具の方ね、ごはんは無事」
「落としたって、どこで」
「あっち。とりあえず、置いてきちゃったんですけど。どうすればいいっすか」
「やけどとかないか?大丈夫だな?先生が給食センターに相談しに行くよ。それでも足りないかもだから、他のクラスから少しずつもらっておいで」

健人は、はーいと軽く返事をした。私は、あの、とか、いや、とか言いかけたけど、健人はそれを無視するように話を進める。

「ああ、なんで、給食の時間が少し遅れそうだな。まずみんなに説明して、協力してもらって・・・」
「いいよ、先生。俺が言っとく。謝っとく。だからセンターの方お願い。します」
「そうか?頼んでいいか、すぐ戻るよ」

そう言って先生は教室を離れた。私は健人に、言うべきことがたくさんあるのに、どの言葉から発していいのかわからなくて、ばかみたいに口をぱくぱくさせた。健人は、やっぱりそんな私を無視した。教卓に置いてあったプリントをメガホンみたいに丸めて、健人は言った。

「みんなごめん、みんなの給食を、盛大にぶちまけちゃいました」