あの子の好きな子




がんがらがん。さっきよりも盛大な音がした。一瞬の後、目の前には、転がった容器、中からどろどろと流れてくる中華丼の具。世界が止まったと思った。

「うわ、加奈!」
「・・・あ・・・えっ」

状況を飲み込むより早いスピードで、どろどろどろどろ、具が流れていく。後ろから飛んできた健人が容器をおこしたけど、もうほとんど吐き出した後だった。

「あちゃー、やっちまったね、加奈」
「・・・う、うそ・・・ごめ、どうしよう・・・こんなこと今まで・・・」
「俺の経験では無いかもなー」
「私・・・、ごめん、どうしよう・・・」

クラス全員分の、昼食が。しかも中華丼の具。真っ白のほかほかごはんだけ残されて、どうすればいいのだろう。

「まあ、正直に言うしかないっしょ」
「・・・ごめん・・・わざとじゃ」
「わざとやってたら、うけるわ」

健人は笑って言ったけど、その言葉が怖かった。内心、怒ってるんじゃないだろうか。ああ、クラスのみんなにも謝らないと、なんて言われるだろう、表では大丈夫だよ、と言われても、あとでマジサイアクとか言われるんじゃないだろうか。床も掃除しなきゃいけない。こんなに食べ物を無駄にして。用意してくれた人も、きっと悲しむ・・・

これは夢だと思いたかった。私たちはとりあえず、ワゴンを転がして教室へ向かう。