あの子の好きな子



「健人、ふざけないでやろうよ」

今度は健人が怒られた。健人は、はいはーいと返事をしたかと思うと、また隣の人とおしゃべりをして笑っていた。

「もう一回やろうってば。健人、やる気ないの?」
「え?あるある、超あるよ。はいみんな、深呼吸して、頭からやるからね、声出していきましょ」

急に仕切り出した健人に、何人かがくすくす笑った。ああ、健人が喋ると明るくなって良い。

「藤本、お前またパート間違えんなよー。りょーへいも」
「健人お前もな」
「はいはい。それと、加奈」

え?

男子同士でからかいあってると思ったら急に自分の名前が呼ばれた。

「体調悪いんだから、今日は帰れ」
「・・・え?」
「当日病欠したら、マジ痛手だよ。加奈ちゃん、今日は帰ります」

健人は手を叩いてそう言った。周りの友達が、体調悪かったの?と聞いてくる。私、健人に、そんなこと言ったっけ。本当のことを話すと泣いてしまいそうだから、誰にも言わずに、朝から元気なふりしてたのに。

「・・・う、うん・・・ごめん。風邪、ひいたみたいで・・・」

混乱したまま、そう答えた。とにかく帰らせてもらえるのは助かる。そういうことにしてもらって、その日は逃げるように帰った。