「や・・・やっぱりいいです」
「いいよ、言ってみなよ」
「いや、本当にいいです」
「でも、気になるし。何?」
似たような問答を前にしたことがあった。あの時は、立場が逆だったけど。
「あの、その、お願いっていうか質問ていうかなんていうか」
「うん、何?」
やっぱり、言わない方がいいと思った。すごく子供っぽいことなんだろうと思った。私はただでさえ、大人な先生との距離を縮めるために少しでも大人っぽくいたい。私が先生に求めていることは、きっと大人は求めないんだろうと思う。そう思うけど、言いたくないけど、でもやっぱり欲しい。しばらく自分と戦っていたけど、先生がほらと言うから、私はそれを言うことになる。
「あの・・・、先生、色々、説明してくれたでしょ、今までの先生の気持ち」
「ああ、うん」
「それで、あの・・・こ、子供だと思うと、思うんだけど・・・」
「うん?」
「つまり、先生はさ・・・」
「うん」
「わた・・・私のこと、好き?」
もう、ほぼ1年前になる。駅の改札で、先生を呼びとめて、初めて好きだと告げた。あの時と同じくらい、恥ずかしかった。私のこと好きなんてすごく馬鹿みたいなことを言っているのがわかっていて、それも恥ずかしいし、今起こっている夢のような現実を直視することもまた恥ずかしかった。しばらくたっても先生が何も言わないので、少し顔を上げて先生の顔を見る。先生はそれを待っているように優しい顔で私を見ていた。そんな顔教室じゃ見たことない。
「好きだよ」
私はばれないようにこっそり自分の太ももをつねって、夢じゃないことを確かめていた。
