「・・・やけに、気になっちゃうんだよ。放課後、男子生徒の群れに囲まれてる久保のこととか、今さら、佐々木のこととか」
「え?」
「この歳になって、しかも先生やってるのに、まさか男子高校生相手にこんなにもやもやさせられるなんて思ってもなくて、ちょっと・・・ショックだったんだけど」
先生は照れた様子で笑った。私は目の前の現実が信じ難くて、ただ口をぽかんと開けて先生を見ていた。あの頃、私ももどかしさを感じていたあの頃、先生はそんなことを考えていたのか。あの、何も考えてなさそうな、何も執着しなさそうな先生が。はいさようなら、なんてとぼけた顔して言いながら、そんなこと感じていたの。
「だからチョコレート貰っても・・・ああやっぱり久保が好きなのは自分なんだなってほっとしてることに焦ったりして」
先生が照れながらもこんなにおしゃべりを続けてくれるのは、私が言ってと急かしたせいでもあるけど、私を安心させるためもあると思う。先生が私を抱き締めてくれたことに説得力を持たせて、私の不安をなくそうとしてくれているんだと思う。論理立てて、じっくり説明しようとするあたり、理科教師っぽいのかなあ、と考えた。
「あの頃、妙なこと口走ったりするようになったし、なんだかそろそろまずいかなあとは思ってたんだけど」
「・・・そんな、まずいまずい言わないでよ」
「ああ、ごめん。でも本当、さっき久保に触れる前まで、頭の中ではずっとマズイマズイだったよ」
「触れる前まで?」
「耐えるべきだと思ってたから」
私がふふっと笑いかけると、先生は私の頭をぽんぽんとしてくれた。それが嘘みたいで、夢の中みたいで、だけどいくら触っても先生はちゃんとそこにいた。これは本当のことだよ、って、ゆっくりと丁寧に私に教えてくれた。だけど私は、今ひとつもの足りないというか、あとひとつ欲しいと思っていた。私には、たくさんの説明より、言い訳より、もっとずっと欲しいものがあった。
「ね、先生・・・」
「ん?」
「あのね・・・」
先生がもの凄く優しく聞き返してくれて、私は恥ずかしくて俯いた。
