あの子の好きな子



「順番が、違ったな。怖かった?」

私は首を横に振りながらも、そんな声を出す先生が知らない人みたいだと思った。先生は、ころんと膝に置かれていた私の両手を、包み込むように握った。安心させるようにしているみたいだった。

「正直、こんなはずじゃなかったんだ。こんな、生徒と・・・なんて、自分には荷が重いし、なんていうか・・・常識的に、さ」

先生はいつもと同じようにゆっくりと話していたけど、やっぱり知らない人のようだった。もっと言えば、篠田先生ではなくて篠田悠一になったんだと思う。

「でも、ほんと言うと、結構前から、やっぱり特別な存在になっちゃってたんだと思う、久保は。・・・よくわからないけど、自分でも」

私は頷きながら先生の話を聞いた。だんだん照れ臭そうな素振りを見せたり、はにかんで笑ったりして、私の知っている先生の顔が見えてきた。私は今日はじめての笑顔を作って、先生に笑いかけた。先生がどうして私を受け止めてくれたのかは、私も聞きたい。

「・・・じゃ、いつから・・・とか、わからないってこと?」
「明らかにまずいと思ったのは、久保がぱったり来なくなった頃かなあ」
「・・・ああ」
「ほっとしたっていうのも、少しあったんだ。でもやっぱり寂しくて。それでも、恋愛感情とかそういうのではないと、思ってたんだけど・・・」
「・・・・・・だけど、何?」
「え?」

私が聞くと、先生は思い切り気まずそうな顔をした。私は身を乗り出して、その話を催促した。

「うーん、どうしても言わないとだめかな」
「うん」
「あ、そう・・・」

先生は参ったなあと言うように頭をぽりぽり掻いた。いつもの先生の癖に、本当に篠田先生なんだと安心する。