先生が私に触れるたび、私は先生のことが欲しくなる。頬をなでる手がもどかしくて、私は先生のセーターを、胸元のあたりでぎゅっと掴んだ。もっと近くに寄りたい。先生を引き寄せるように、自分もすり寄るように、先生を掴んで離さなかった。先生の手が、頬っぺたから耳を通って髪の毛をすくう。そのまま頭をなでられるように包み込まれて、私は先生に身を預けた。顔が近付くので目を閉じたら一瞬だけ唇が触れるだけのキスをくれて、そのあとはまた先生の胸に閉じ込められた。
体は熱いのに、一瞬冷たい血が流れるような、味わったことのない感覚がした。胸も頭もギュっとして、もう何も考えられない。どうなってもいい、と本気で思った。先生の腕に包まれて、あたたかい胸の中に埋もれて、このまま時間が止まるなら明日が来なくてもいいと思った。
「・・・・・・久保」
先生が私を呼んだ。どれくらい時間が経ったんだろう。キスをして先生の胸に眠ってから、準備室には時計の針の音だけが響いていたけど、どれくらいの時間が経ったのか全く見当もつかなかった。私の名前を呼んだ先生の声は、聞いたことがないくらい小さくて、かすれていて、でも優しかった。
「・・・うん」
それだけ返事をした。このままずっとこうしていたいけど、でもそれじゃ私の心臓がいつか壊れてしまいそうで、皮膚も溶けてしまうんじゃないかと思うほど熱かった。先生の手につかまったまま、ゆっくりと体を起こして、もう一度先生を見た。ちゃんと篠田先生がそこにいて、私は急に恥ずかしくなってきた。1秒、また1秒と時間が経つにつれ、だんだんと冷静になってきて、もしかして今とんでもないことをしたんじゃないかという気になってきた。
「・・・先生・・・」
「うん」
先生もそれだけ返事をした。正気を取り戻しつつある今、どうしていいのかわからずにいたら、先生がゆっくりと口を開いた。
「急に、ごめん」
