もう先生の顔は見えなくなってしまったけど、先生が動揺していることだけはよくわかった。当たり前だ、だいぶ思い切った行動に出てしまった。だけど思ったより厚いその胸板に顔をうずめて、背中をぎゅっとしても、私のぱんぱんになった気持ちはまだまだ溢れ出て止まらなかった。
「・・・せんせ、好き」
もしかしたら聞こえなかったかも、と思うくらい小さな声になった。私の声は先生の胸に、セーターに吸収されて、とてもか細くなった。先生の動きがぴたっと止まる。どんなこと、考えているんだろう。そんなことも構っていられないぐらい、気持ちが膨れ上がって苦しかった。
少しして、先生の両手が私の肩をそっと掴んだ。それから、そっと、そっと、壊れ物でも扱うみたいに私の体を引き離す。先生と目が合った。あ、突き放されると思った。先生はきっと、どうやって傷付けないで拒絶しようかと考えている。そう思いながら、先生の目をじっと見つめていた。先生の目も、私の目をまっすぐ見ている。また一粒、こぼれるみたいに涙が落ちた。
涙が落ちて、床に弾ける。その瞬間よりも早いか遅いか、先生が私の体を引き寄せて閉じ込めた。私の顔は再び、先生の胸に埋もれる。今度は先生の手がしっかりと私の背中をぎゅっとしていて、あれおかしいなと思った。私、先生に抱き締められてい、る・・・
それを理解した瞬間に、足に力が入らなくなってへなへなと座り込んでしまった。足が踏ん張れない、腰が砕ける。私をぎゅっとしていた先生も、合わせるように床に座り込む。もう一度目が合った。私は涙目のまま目をまん丸くしていて、先生は至極真剣な顔をしていた。もうおろおろもしていないし、にこにこもしていない。どちらかというとぼんやりした目で、私をじっと見ている。
「・・・せん・・・・・・」
先生、と呼びかけることが出来なかった。先生の親指が、私の頬をなでる。涙を拭う。一粒一粒をすくうように、先生は丁寧に私の頬をなでた。親指だけだったのが、だんだんと先生の手が、私の頬をなでる。泣き過ぎてむくれた頬っぺたを、包むように先生の手のひらがある。
心臓が激しく脈を打っている。
