あの子の好きな子



その日の帰り、掲示板に貼り出されたクラス表を改めて眺めた。E組の中に、自分の名前を見つける。
久保遥香。
適当でも、社交辞令でも、先生がいい名前と言ってくれたその名前が、なんだかとても好きになった。見慣れた名前なのに、すごく特別で素敵な名前のように感じた。先生が言った「遥香」の響きを大事に胸にとっておいて、何度も思い出しながら眠った。



「ねえねえ、聞いた?宮原くん他校に彼女いるんだって」

初日から顔面偏差値がどうのと騒いでいた友人は、毎日のようにそんなような情報を手に入れては一喜一憂していた。春は、色んな人の噂話がかけめぐる。去年は噂話に翻弄された1年間だったなあと改めて思った。

「あとさあ、バスケ部の子に聞いたんだけどさ、安藤くん、いるでしょ。1年生からかっこいいって騒がれてるらしいよ、意外にも。喋ったら馬鹿なのにね」
「それもいいんじゃないの」
「1年生は若いしすぐ騒ぐからなー」

あんたもたいがいすぐ騒いでるよ、と思った。笑いながらお弁当箱をあけると、またしても箸がない。もう、忘れた時用にスペアを鞄にいれておこうか。ため息をついて立ち上がった。

「お箸忘れた。購買行ってくる」
「わーこの時間混んでるよ。私も行こうか?」
「平気。食べてて」

私は階段を降りながら、また先生にばったり会わないかなと期待した。自販機の近くできょろきょろと辺りを見渡したけど、先生はいない。そうラッキーが続くはずもなかった。