「ごめん、間違えたんだよ。先生が言うことじゃないから、取り消す」
「だから、気になるんだってば。何でもいいから、教えてください」
先生は少しだけ口をとんがらせた。その顔が子供みたいだった。先生はしぶしぶ口を開く。
「いや、前に二人、噂されていたから。そういえばどうなったのかなって」
「・・・え?」
「ほら、なにかって言うとセクハラって言われちゃうから、今。あんまりこういうこと言っちゃだめなんだよ本当は」
「・・・・・・・・・」
先生じゃ、ないみたい。率直にそう思った。人の噂なんて、耳に入れてもへえそうなんだあで終わる人なのに。そんな風に人のことを詮索する先生は、先生じゃないみたいだった。と言っても私は先生の全部を知っているわけじゃないし、先生は外では意外とそういう人なのかもしれない。だけどこんな今さら、そんな昔の噂話をひっぱってきて話題にすることは、どうしても篠田先生のしそうにないことだったから驚いた。
「会長とは、なにも・・・・・・仲良い友達です」
とりあえず質問に答えて、妙な気分になった。なんだか私、まるで弁解してるみたい。会長とはなんでもなくて、今でも私が好きなのは、先生です、って。私が答えたきり妙な沈黙が流れて、なんだか3月のあの日のことを思い出した。あの日も、こんな感じで、なんともいえない雰囲気が漂っていたから。
「・・・わ、私が・・・」
私が好きなのは先生です、と言ってしまおうかと思った。もう何度も告白しているし、今さら何がどうなるわけでもないと。だけどこの得体の知れない雰囲気の中、私の体は熱を帯びていて、とてもその言葉を口にする勇気がわいてこなかった。
「私・・・、C組だったら・・・・・・よかった」
それが精一杯だった。あとから、「会長もいるし雄也もいるし先生もいるし」と早口で付け足した。先生は、笑ってそうだなあと言ってくれた。
