「それじゃ、手伝ってくれる?名前覚え」
「えっ?」
「C組の生徒の名前、名簿見て覚えるから」
「あ・・・、うん」

先生は名簿を開いて、ふんふんとか言いながら文字をたどっている。私はそれを覗き込んだ。先生との距離が今までで一番近くなった気がして、もの凄くドキドキする。だけどやけに安心感があって、なまぬるい幸福感と激しい鼓動と、その両方を感じていた。

「あっ。広瀬雄也って、私、幼馴染なんです」
「へえ。じゃあ、家近いんだ」
「はい。あとは・・・結構知らない子多いなあ・・・あ、この子、テニス部です」
「うん」
「えっと、それから・・・あっ、会長もCなんだ、知らなかった」
「ああ、佐々木かあ」

会長も雄也もうらやましい。だけどクラスが違っても、こうやってこの場所で、こんなに近くで先生と触れ合える今の私は、充分すぎるほど幸せだと思った。どうしよう。体が熱い。

「そういえば」
「はい?」
「久保、佐々木とは・・・・・・」

そこまで言うと、先生は口を止めて考え事をした。なんだろうと思って見ていると、少しして先生は何でもないと言って視線を戻した。

「何でもないって、なんですか」
「え?いや、やっぱりいいよ」
「よくないよ、気になります」
「いやごめん、本当に何でもない。っていうか、今のはなしで」
「なしで、じゃないでしょ。言ってください、なんですか」

ムキになってそう言ったら、先生はうーんと首を捻った。先生が困っている。だけど私はじっと先生の答えを待った。