あの子の好きな子




「どうかしたの?お届けものとか?」
「あ・・・、うん、えっと・・・」

私は、一応持ってきていた学園祭のパンフレットを抱きしめた。篠田先生も言っていたように、わざわざ今日これを届ける必要はないかもしれない。というか高校生になってから、誰かが誰かの家に配布物を届けるなんてしているところを見ていない。そうだ、今回の本当の目的は、お届けものを頼むことではなくて、別のことだった。

「お、お届けもの頼もうかと思ったんだけど、やっぱり、今度渡すからいいとして・・・」
「うん、なあに?」
「えっと・・・」

その時、私は急に不安に襲われた。今まで広瀬くんの連絡先も知らないでのんきに過ごしていたように、私は大事なことを見落としているんじゃないだろうか?そもそも、広瀬くんには彼女がいるかもしれない。好きな子がいるかもしれない。どうして今まで考えたことがなかったんだろう。

急にこんなに不安になってしまったのは、久保さんと広瀬くんが思ったより親しそうだったのがひとつ。それに、久保さんがあまりに素敵なオーラを放っている女の子だったから。こんなに魅力的な女の子と、幼稚園から仲が良くて、果たして何もないなんてことがあるだろうか?思わず久保さんと広瀬くんの関係を疑ってしまったけど、それもひとつの可能性に過ぎない。久保さんと何もなかったとしても、他のどこかの女の子と付き合っていても何もどこもおかしくないじゃないか。
本当に、どうして今まで考えたことがなかったんだろう。

「・・・森崎さん?」
「え!えっと・・・あの・・・、広瀬くん・・・ええと」

何を言ったらいいのかわからなくなってきた。私は何をしに来たんだっけ。たしか広瀬くんの体調のことが知りたくて、聞こうと思ったら、連絡先を知らなくて、誰かに聞こうと思って・・・。あ、でも、もう広瀬くんが本当に風邪だったこともわかって、熱はそんなに高くないこともわかった。久保さんが知っていた。だったらもう、いいか・・・。