言葉が詰まってしまった私を見て、先生はまた立ち止まった。
「・・・ごめん。また余計なこと言ったかな」
正直、さっきよりも大きな爆弾だった。閉めるときはとことんシャッターを閉める先生が、今日はどうしてこんなにも不用意なんだろう。私も私で、えーほんとですかーとかなんとか言って流しておけばいいものを。でもさっきから段々と、鼓動が加速を始めている。久しぶりに胸がドキドキとうるさいのだ。
「大丈夫です・・・と、特別な意味じゃないし」
先生に言われる前に自分で言った。というか、他になんて言ったらいいのかわからなかった。とにかく立ち止まっていてはだめだと思って、沈黙のままでも階段を上り続けた。1段1段踏みしめても、頭の方は整理がつかない。あんなに願った先生との偶然の逢瀬なのに、私は先生の顔を見ることもできずに早足で階段を上っていた。
「久保」
「はいっ」
いつの間に先生を追い越してずんずん階段を上っていた私は、弾かれたように振り返った。先生は、さっき私がそうしてたみたいに、下の段から私の顔をじっと見つめていた。
「頭冷やして、考えてみるよ。・・・考えてみるから・・・」
そう言ったまま先生の言葉は止まった。先生は、いつもの能天気な表情ではなくて、無表情というか、少しだけ思いつめたような、微妙な表情をしていた。先生のこういう顔はあまり見たことがない。それにしても、言葉の意味がよくわからなくて、私は頭にはてなマークを飛ばしていた。
「・・・え?何を・・・」
「え?だからその・・・なんていうか」
「何?」
「いや・・・なんだろうな」
「え?」
私はぽかんとした顔で先生を見下ろして、先生は難しい顔をして私を見上げていた。
