何気ないひとことだったけど、私には衝撃的だった。私が先生への好意を打ち明けてから、私の準備室通いは、ほとんど先生の反対を押し切って強行しているようなものだった。行けば迎えてくれるけど、先生の方からおいでといったような意味のことを言うことは絶対になかった。私の好意がお荷物だった先生にとって、準備室通いは決して歓迎されるものではない。そのことは半年以上もの間、私自身ひしひしと感じていた。それなのに。
「・・・どうした?」
突然立ち止まった私を先生が不思議そうに振り返った。私は口を開けたまま、数段先にいる先生の顔をじっと見つめた。先生はますますわからないという顔をする。私はぽかんと開いた口をそのまま動かした。
「・・・・・・いいの?」
声がかすれた。先生はまだわからないらしく、ただまばたきをして私を見た。私も一度だけまばたきをして、先生をまっすぐ見たまま続けた。
「準備室に・・・行ってもいいの?」
「・・・え?いつも、来てるじゃ・・・」
「だって・・・だって、先生、私のこと邪魔でしょ・・・」
「そんなことないよ。言っただろ、なにかあればいつでも聞くって」
「違う、そうじゃなくて・・・そういうんじゃなくて・・・言ったことないもん!受け入れるのは教師として仕方ないって感じで・・・先生からおいでなんて、そういうこと、言ったこと一度もないよ」
自分でも言いたいことが整理できていないと思った。伝わったのかわからないけど、先生は視線を泳がせていた。そこから一段も階段を上れないまま、二人とも黙りこくってしまった。しばらくして先生が、低い声でつぶやく。
「・・・ごめん。別に、特別な意味じゃなくて」
特別じゃなくて。またこれだ。先生はきっと、なんの考えもなしになんとなく言ったんだろう。私が過剰反応したんで、きっと焦ってる。言うんじゃなかったと―――
