あの子の好きな子





「先生・・・・・・」

力なく扉を開けながら、肩で息をしたままそう言った。先生は、いつものところに座っていて、分厚い本を開きながらお弁当をつついていた。まばたきしながら私を見ている。

「・・・久保?」
「・・・せ、先生・・・お昼ごはんここで食べてるの?」
「あ、ああ。うん、まあ。ここの方が落ち着くから」
「へえ・・・」

ああ、先生がごはんを食べているところなんて初めて見た。男の人にしては小さなお弁当箱。自分で作っているのかな、とぼんやり考えた。

「どうかしたのか?息切らして」
「え?あ・・・あ、そうだ、えっと・・・」

私は慌てて、さっき預かったプリントを先生に差し出した。

「これ、さっき出し忘れたって・・・届けに来ました」
「ああ、ありがとう。そんなに急がなくてもよかったのに」
「そう・・・ですよね」

息と髪を整えながら、私は久しぶりに先生と近くで会えた実感をじんじんと感じていた。勝手に忙しくなったのは自分なのに、久しぶりの先生との時間になぜだか無性に泣きたくなった。

「ど・・・どうした?とりあえず座るか?」

思いつめた表情でじっと見つめていたら、先生は困ったようにそう言った。本当は座りたかったけど、先生の食べかけのお弁当や、プリントが山積みになったデスクを見たら、そこまで図々しくはなれなかった。私は結局、それだけですと言って準備室をあとにした。やっぱり、放課後、また来よう。今日こそ、野球部には行かないって伝えよう。そう決心していた。