「本当に出れる時だけでいいらしいから。ね」
「わ・・・私じゃないとだめかなぁ?」
「だって遥香がいれば心強いんだもん。それに遥香、スコア書けるじゃん、野球の」
やっぱり言われた。私の父親は重度の野球オタクで、私は小さい頃から野球のルールはもちろんスコアの書き方まで叩き込まれた。幼い頃、中継のある試合のスコアを書いては父に褒められた。ただ、私は野球自体にそれほど熱中することはできなくて、自然と野球からは遠ざかっていった。別に野球が嫌いではないし、高校野球を見て感動したりするけれど、父に褒められたいがためにスコアを書いていた幼少時代は完全に終わっていた。
「ね、お願い!遥香に好きな人ができた時は私も応援するからさ!」
「いやそれは・・・うん・・・」
「やろうよ、ね!」
「ううーん・・・・・・」
「お願い!」
「・・・ほ・・・本当に出れる時だけ、なら・・・」
出られる時だけ。週に1回、もしくは2週間に1回。その日だけ準備室に行くのを我慢しても仕方ないくらいの頻度であれば。そういう返事のつもりだった。
現実は甘くない。
1度練習に出てしまえば、場の雰囲気、美咲の誘い、部員への申し訳なさ等々が作用して、結局なし崩し的に毎回参加するはめになっていた。テニス部、野球部、テニス部、野球部、テニス部。私の毎日が風のように過ぎていく。私は高校生活をこんなにも部活色にするつもりはない。まして私の3年間は、先生のために捧げると決めた短い短い3年間なのに。いつも、準備室へのその階段に後ろ髪を引かれながらグラウンドに向かった。こんなこと、してる場合じゃない。
