重い靴を履いているかのように、すぐそこにあるはずの家が遠かった。ようやく近くまで来たところで、白いビニール袋を提げた雄也と鉢合わせした。
「あ、雄也・・・」
「ああ」
玄関先で会うことなんてよくあることだから、その程度の挨拶をしたら普通は家に入ってしまう。ただ私があまりにも呆然としているからか、雄也は立ち止まって私の全身をまじまじと見た。
「何してんの、手ぶらで」
私は、手に冷えきったホットココアの缶を持っているだけだった。見た感じ雄也はコンビニにでも行っていたんだろう。私は見慣れた雄也の顔を見て、ぎしぎしに張りつめていた緊張や切ない気持ちがぽろっとほどけたような気分になった。
「雄也・・・」
公園でずっと我慢していたものが弾けて、私はどこか変なスイッチを押されたかのように泣き出した。声は出ないのに、涙の粒だけが次々に流れていった。雄也は一瞬驚いた様子を見せて、一歩二歩私に近付いた。私は下手くそな恋をして泣かされて帰ってくることがよくあった。雄也はいつも何もしないけど、いつも落ち着くまで隣に座ってくれた。雄也にとってはまたかといった感じかもしれないけど、今日の涙は今までのものとは少し違った。ぶつかって、ぼろぼろになった末の涙じゃなかったから。
「どうしたんだよ今度は」
雄也は小さなため息をつくと、上着のそでで私の涙を乱暴に拭いた。荒い生地だから少し痛かった。
