あの子の好きな子




「ここのとこ、全然話せてなかったけどさ・・・」
「うん」
「また、前みたいに普通に話そうよ。普通に、前みたいに、クラスメイトとして仲良くして・・・そのうち、みんなも噂のことなんて忘れるからさ」
「・・・うん」

会長が優しくするほど苦しい。きっと、他にもたくさん会長のこと好きな女の子はいる。きっと会長は、誰か他の女の子を、とびきり幸せにできる。そう思った。
会長はベンチから立ち上がると、私の顔を見て言った。

「もうひとつ聞いていい?」
「うん」
「久保、好きな奴いるんだろ?」

私は少し迷ったあと、こくんと頷いた。

「あの、幼馴染の?」
「・・・違うよ」
「そっか。なんか俺、一人で勝手に意識しちゃったな、幼馴染のこと。別の奴なんだ」

私はまた、こくんと頷いた。それがまさか篠田先生だなんてこれっぽちも思わないだろう。会長に合わせて私も立ち上がると、二人で公園の出口まで歩いた。会長は、最後にもう一度私の方に体を向けた。

「頑張れよ。なんて、かっこつけて言ってみるけど」
「うん。ありがとう・・・」
「じゃあ、帰るよ」
「うん。・・・ありがとう、会長」

会長の背中が見えなくなるまでずっと見つめながら、数え切れないくらいありがとうごめんねと心の中で呟いた。明日教室に入ったら、きっと会長の方からおはようと声をかけてくれるだろう。軽い気持ちで言い寄って来る人を拒絶することはよくあっても、こんなに苦しいごめんなさいを言ったのは初めてだった。