あの子の好きな子




「先生」
「ん?」
「先生って、りんごあめ好き?」

ちっとも、どこにも、先生を諦められる兆しなんてなかった。私は結局がまんができなくなって、少しだけ授業に無関係な話もしてしまう。

「りんごあめ?」
「お祭りの屋台で売ってるやつ」
「ああ、あんず飴。うん、好きだよ」

先生ってほうじ茶好き?先生って実験の授業好き?先生は、大抵のものに「うん好きだよ」と答える。以前から私は、どうでもいいようなことを先生に好き?と尋ねるくせがついていた。いつも、その対象がなんであっても、先生の「好きだよ」という声の響きにちょっとだけ嬉しくなった。

「私も好きです。お祭りの味っていう感じがする」
「そうだね」
「・・・・・・」

先生、もみじ祭り、一緒に行こうよ。ついこの間までの私だったらそう言っただろう。その言葉が言えないのは、会長と約束をしているからだけじゃない。もうそんな私はやめるからと、先生と約束してしまったから。今の私は約束に縛られている。
それに、黙り込んでしまったのは、夏休みのことを思い出したから。お祭りの屋台の話をしたら、ふと夏休みの花火大会の日のことが頭をよぎった。あの日はこの場所で、先生の手を捕まえられたのに。

「先生」
「何?」
「・・・期末、頑張ります。ありがとうございました」

私は教科書とノートをたたんで立ち上がった。先生はいつも通り、お疲れ様また明日と言う。準備室の扉を閉めるとため息が出るけど、また明日もここに来るためにはこうするしかない。先生を好きな私をやめてから、帰らなきゃいけないタイミングも学んでいた。