あの子の好きな子




「やっと中間が終わったと思ったら、もう期末かぁ」

放課後は、相変わらず準備室にいた。私はノートの上でシャーペンをくるくると宙で踊らせる。今日の先生は、何やらノートパソコンに向かっている。

「先生も、問題作るの大変だね」
「そうだなあ。やっと採点が終わったと思ったら、問題づくりだからなあ」
「手伝いましょうか、問題づくり」
「それは不正行為っていうんだよ」

やんわりと叱られて私は笑った。先生がぱたぱたとキーボードを叩く音が心地よくて、今だけキーボードになりたいなと考えた。先生と話して、笑って、たまに頬杖をついて先生を眺める。幸福なこの空間にずっといられるのなら、私はもう先生を無理に求めない方が幸せなのかもしれない。ただ、この幸福に3年間という期限がつくだけ。私だけの特別な先生にはならないだけ。

「ここの、なんとかエネルギーのところが覚えにくいんですよね」
「そうかな。とにかく書いて覚えることだね」
「えっと、エネルギー保存の法則とは・・・」

私はあれから、意識的に授業の話を中心にした。もともと私は、授業の質問をしにここに来ているから。もう先生への好意を表したりしないと約束してしまったから、私はあくまで勉強熱心な生徒を演じていた。それに、私は地学の話をしている楽しそうな先生を見るのが好きだった。私のノートを覗き込んだときのうつむく先生のまつ毛が好きだった。

「先生、このへんは出ますか?テスト」
「だから教えられないってば」

先生が目をなくして笑う。ああ、やっぱり先生の笑顔が好きだ。