あの子の好きな子





「・・・お前、本当に大丈夫か?焦点合ってないけど」
「えっ?大丈夫、どきどきなんてしてないから・・・」
「はあ?」
「え?」
「動悸がどうとかじゃないだろ。指だろ、怪我してんの」
「う、うん、承知してます」

ふっと広瀬くんの手が離れた。指が熱いのは怪我のせいなのか広瀬くんのせいなのかわからなくて、なんだかもう何が何やらわからない。広瀬くんのことはずっと好きだと思ってきたはずだし、毎日広瀬くんと話せてうれしいし、いいな広瀬くんのこと好きだなって毎日思っていたはずなのに。こんなに心臓を激しく鳴らして、私はこの時初めて広瀬くんをはっきり好きだと自覚した気がした。

「あの、じゃあ、私、えーと、どうすれば」
「だから保健室だろ」
「あっそうだった。保健室・・・えーと」
「大丈夫かよ。俺行った方がいいの?」
「え・・・、あ、う、うん、広瀬くん来て」
「・・・。なんなんだよお前はガキか」

わけのわからないまま、こうやってもっと広瀬くんの声が聞きたいと思うままに願望を言ったら、広瀬くんは仕方なさそうにしながら私の前を歩いてくれた。階段を降りながら、広瀬くんのつむじが見える。時々振り返って私の顔を見たり、小言を言ったりする。なんだかんだ言って心配してくれていることは私でもよくわかって、そういう優しさにも私は苦しくなった。

広瀬くん。
広瀬くん。
広瀬くん。

頭の中で何度も呼んだ。この時に気付いたことがある。私は広瀬くんを「この人が好きだなあ」という感覚で見ていた。でもそうじゃなくて、それだけじゃなくて、私はこの人の一番になりたいんだ。広瀬くんの一番の女の子になりたい。いつもあゆみって呼んで欲しいし、いつも手を引いて歩いてほしい。広瀬くんが一番大事だって思う女の子に、私はなりたいよ。誰よりも知りたい。誰よりも、広瀬くんの胸の中に入って行きたい。