あの子の好きな子




「久保の家ってさ、あの辺の・・・」
「え?あっ」

鼓動がおさまらないまま、ずっと花火の方を見ていた先生が私の顔を見て話しかけて来た。動揺した私は、持っていたほうじ茶を少しだけ手にこぼしてしまった。

「熱っ・・・あちちち」
「ご、ごめん。大丈夫か」
「わ、びっくりした、大丈夫です、そこまで熱くなかっ・・・」

湯のみを急いで机に置いて、手の様子を確かめようとしたら、それより先に先生が私の手を取っていた。先生に触れたくて、手を伸ばして、いけないことだと引っ込めた。胸の鼓動を落ち着かせようとしていた矢先に、先生の手が思いがけず私の手を握っていた。ちょうどその時、20号玉の大きな花火がドォンと上がった。心臓がぶるんと震えたのは、打ち上げ花火の衝撃なのか、先生の手のせいか。

「せん・・・」
「大丈夫そうだね。やけどにはなってない・・・し」
「・・・・・・」
「どうした?」

私はきっとまゆ毛が下がった泣きそうな表情で先生を見たと思う。先生が私の手を離しそうになったから、その手を私から握り返した。その間もずっと、花火の色が先生の頬を染めていた。

「久保」

先生は動揺したけど、私は手を離したくなかった。両手で握りしめた先生の右手を、自分の顎のあたりまで持ってきて、先生を見つめたまま視線をそらさなかった。先生も私も何も言えないで、花火のドンドンという音が何度か響いた。私は心の中でだけ、何度も声をかけた。

先生、好き。