「ねえ、先生。電気消してもいいですか?部屋の中だけ明るいから、なんか雰囲気出ないよ」
「ああ、いいけど・・・教室のドアは開けたままじゃないとだめだよ」
「そう?それでさ、窓際に椅子持ってこようよ。座りながら見たくないですか?」
「なんか、縁側みたいだな」
「先生と縁側って似合う」
電気を消すと、遠い空に咲く花火でも、その光が準備室まで届いた。先生の頬が、赤色、緑色に照らされた。私は先生と同じほうじ茶を飲んで、花火と先生の横顔を交互に見た。すごく幸せだった。
「先生」
「ん?」
「へへ」
「何?」
「うーうん」
頬がゆるんで止まらなくて、それを隠すようにお茶を飲んだ。ドン、パラパラ。黙っていると花火の音だけがよく聞こえた。ふと目線を膝元に移したら、先生の手が、先生の膝の上にころんと置かれていた。部屋の暗さとか、花火の音とか、鮮やかな光が、私を酔わせていたのは確かだと思う。先生のその指先に、ちょっとでいいから触れたくて、そろりそろりと先生の手の方へ、私の手を伸ばした。
「あ、ハートだ」
突然先生が言ったその言葉にびくんとして、手を引っ込めた。どうやらハート型の花火が上がったようで、先生はにこにこしたまま「見た?」と言った。私はうんうんと適当に答えていた。
「すごいよなあ、最近の花火。キャラクターものとか、久保見たことある?」
「う、うん。いくつか」
胸がどくんどくん鳴って仕方ない。落ち着かなくちゃ。先生に触れちゃだめだ。それは私でもわかる、ギリギリのラインの向こう側。私がこの場所で今、先生に触れちゃいけない。それは、やっちゃいけないことだ。
