ドンドンドン。打ち上げ花火の音が、かすかに聞こえる。先生はいつものほうじ茶をすすりながら、私の横に来て窓の外を眺めた。私は先生と同じようにしばらく小さな打ち上げ花火を眺めたあと、先生の顔をちらっと見た。私の好きなあの無造作な黒い髪と、優しそうな目もと。にこにこと花火を見ているその横顔に、胸がじんとした。いくら花火が遠くて小さくても、場所がいつもの準備室でも、今打ち上げられている花火を、先生の隣で見れている。普段だったらもう帰りなさいと言われる夜7時に、この場所で、先生の隣にいさせてもらえる。よく考えてみれば、この上ない幸せじゃないか。私はいつの間にこんなにわがままになったんだろう。
「ね、先生。私、このへん地元でしょ。ここの花火大会、家のベランダからの方がよく見えるんだよ」
「あ。ああ、そうか。悪かったなあ、家帰るか?」
「ううん、でも、いいの。ここのがいい。ありがとう、先生」
どうも気の弱い先生に少し意地悪を言って笑いかけた。そういうところもすごく好き。
「先生、去年もここで花火見てたの?」
「ああ、たまたまね。この学校は4年目だけど、去年初めて見たなあ、ここの花火は」
「そっか・・・」
先生は4年前からこの学校にいる。その頃に出会っていたかった。できれば、4年前じゃなくて、もっと前に、出会っていたかったよ。先生と一緒にいられる時間が、先生と出会った瞬間に、最大で3年間と決まっているなんて悲しすぎる。
「あ、久保、今の見た?大きかったね」
「うん」
楽しそうにそう言った先生が子供みたいで可笑しかった。遠くにぽっかり見えるだけの花火が、線香花火みたいで、逆にいいなと思い始めた。
