「・・・そこに、自販機あるけど、何がいい」
「いいです、いらない・・・ここにいて」
先生の、腰のあたり。相変わらずのよれよれシャツをつかまえるように掴んだ。先生は困ったように私を見て、しばらく沈黙が流れた。
「久保。送ってくよ。ご両親が心配するだろ」
やっと先生が言ったその言葉に、私はぶんぶんと首を振った。先生はまた困った顔をして、次に何を言おうか考えていた。私もこのあとどうすればいいのかわからなくて、何も考えずに先生とこうしていたいとだけ考えていた。
「・・・じゃあ、あと30分だけ休憩したら、帰ろう。な?」
私は少しの間考えて、やっぱりぶんぶんと首を振った。私のわがままに困り果てたようで、先生は一度ふうっと深いため息をついた。なんだか私は、先生を遠ざけるようなことばかりしているんじゃないだろうか。でもあと30分で帰ったら、結局先生とはそれっきり。あと30分幸せなだけで、長い夏休みがやって来てしまう。
「・・・せ、先生」
「ん?」
「先生、私のこと、前より嫌いになってますか?」
先生は、前はもっと笑う人だった。私はその笑顔に何度も助けられた。でも私が好意を表してから、よく見る先生の顔は困った顔ばかりで、前みたいに楽しそうに笑う顔を見られることは少なくなった。
「ならないよ。久保は、生徒なんだから、嫌いになんかならないよ」
生徒なんだから。嫌いになんかならないし、好きにもならないよ。そう言われた気がした。
