あの子の好きな子




「ど、どうした?」
「ごめんなさい・・・」

あまりに気持ちが高ぶって、涙がぽろぽろと溢れた。先生の前で泣くのは二度目だ。一度目は、部活でのごたごたが苦しくて、悲しくて泣いていた。今、ぽろぽろ溢れ出てくる涙は、先生を好きになって生まれた色んな感情が、先生を前にして一気に押し寄せるから。悔しくて切なくてもどかしくて嬉しくて泣いた。

「久保?また辛いことあったか?」
「ち、違う。ごめんなさい。だって、せ 先生が・・・」
「お、俺?」
「夏休みに・・・なっちゃうから・・・そしたらずうっと、先生に会えないから・・・、そのこと考えたりすると、なんか、涙・・・」

自分で話しながら、先生が自分のことを俺と言ったことに驚いた。先生はいつも自分のことを先生と言うから、先生から俺という言葉を初めて聞いた。ただの男の人みたいで新鮮だった。

「だから・・・ごめんなさい。待っててごめんなさい。怒らないで・・・突き放さないで、ください・・・」

先生は私の肩に手をかけようとしたり、やめようとしたり、きょろきょろと辺りを見渡したりした。先生はただ単に、涙に弱いのかもしれない。先生が特別待遇をしてくれたあのプラネタリウムの日のことを思い出したら、そんな気がした。制服姿の女子高生が道の真ん中で泣き出して、それをオロオロとなだめる男の図はそれなりに目立つようで、住宅街の一角だったその場所でも何人かに注目を浴びた。先生は、前にもそうしたように、とりあえず私を連れて歩き始めた。

「久保。ベンチ。座れるか?」
「・・・うん」

先生が連れてきてくれたのはポストが1つだけある小さな広場だった。犬の散歩用なのか、小さなハードルのようなものがいくつかあった。突発的にこぼれる涙はすぐに止まるもので、涙の跡だけが頬に残った。