その妖、危険につき

その瞬間、私は足がすくんで動けなくなってしまった。逃げなきゃ。わかっているのに、体が言うことを聞かない。

あっという間におじさんは目の前まで来ていて、彼の汗ばんでべっとりとした手が私の手首に絡みついた。



「…っや…だ!」

声が掠れた。食材の詰まったエコバッグが、手から離れて、地面に落ちて鈍い音を立てた。

振りほどこうとするけど、できない。痛い。おじさんの荒い息づかいが耳元で響く。


気持ち悪い。

おじさんのもうひとつの手が私を捕まえようとする。この手に捕まったら、だめだ。わかっているけど、どうしようもなくて、現実から逃れるように目を瞑った。