「あ、えっ、あ、ごめん…なさい」


緊張してとぎれとぎれになってしまった。


「いっ、いいよ。大丈夫…あ、この前の…」


『この前の』という言葉を聞いて、

覚えていてくれたことが嬉しかった。


「は、はい!すいません!何回も…え…と…」


彼はいきなり笑い出した。

あたしがきょとん、としていると彼は


「ご・・・ごめん、つい・・・君、おもしろいね。名前なんて言うの?」


「えっ、あ、名前は中原 希衣奈です。中3です。」


「中原さんっていうんだ。俺は谷口 幸矢(たにぐち こうや)。高1
 またどこかで会えるといいね。」


そう言うと、谷口先輩は笑って手を振って行ってしまった。


このあとあたしは鍵のことなんか忘れて

先輩の行った方向をみつめたまま、立ちすくんでいた。